2017年12月27日 星期三

熊本殺人未遂 猫の仕業と断定 寝たきり女性に複数傷

熊本殺人未遂

猫の仕業と断定 寝たきり女性に複数傷

 熊本県御船(みふね)町の寝たきりの女性(82)が顔に複数の傷をつけられ、殺人未遂事件として捜査してきた熊本県警は27日、傷つけたのは野良猫と断定し捜査を終結したと発表した。この野良猫は27日、県警から連絡を受けた御船保健所が捕獲した。
     11月6日夕、自宅の庭仕事から戻った夫(85)が妻の額などに傷があることから警察に届けた。県警はナイフで切られた可能性もあるとして殺人未遂事件として捜査を始めた。しかし、室内が物色されていないことや傷の形状などから、動物のひっかき傷の可能性が浮上。女性の家族が自宅近くで餌を与えていた野良猫2匹のうち、雄の1匹の爪から人の血液が検出され、猫の口付近からも人由来の付着物が出たという。
     法医学や猫の生態に詳しい専門家の「顔の傷は猫のひっかき傷と矛盾しない」とする意見なども踏まえ、県警は猫による傷と断定した。女性が傷をつけられる直前にこの猫が家の中に入るところも目撃されていたという。県警は、猫が女性にじゃれついた可能性もあるとみている。

    https://mainichi.jp/articles/20171228/k00/00e/040/262000c

    原虫・寄生虫類を原因とする急性脳炎

    原虫・寄生虫類を原因とする急性脳炎

    (Vol. 28 p. 345-346: 2007年12月号)
    眠り病など、中枢神経症状を示す原虫・寄生虫感染は、数多くに知られているが、急性の経過を示すものは、比較的少ない。以下、わが国に存在する原虫・寄生虫種による急性脳炎と、輸入寄生虫症で報告されることがある急性脳炎について概説する。
    1.脳性マラリア(Cerebral Malaria)
    急性の中枢神経症状を示す寄生原虫の代表的なものとしてはマラリア原虫がよく知られている。わが国では2000年をピークにして輸入症例数は減少しているが、いまだに死亡例も報告されている。マラリアに共通する典型的な症状として周期性発熱発作、すなわち悪寒、頭痛、筋肉痛、不快感、胃腸症状を示す高いスパイク性の発熱をあげることができるが、熱帯熱マラリアの場合はそれに加えて様々な合併症を引き起こすことが知られている。なお、マラリアについては本月報で特集されているので詳細はそちらを参照して頂きたい(IASR 28: 1-2, 2007)。
    熱帯熱マラリアは感染蚊に吸血された後1~3週間の潜伏期間をおいて発症するといわれているが、国内発症例のほとんどが帰国後1カ月以内に発病している。熱帯熱マラリア原虫、Plasmodium falciparum に感染した赤血球は、表面にKnobといわれる突起が形成され血管内皮に固着する。その結果、脳や他の臓器の細血管の閉塞、サイトカインやNOなどの血管作動性メディエイターの放出につながり、急性腎不全などとともに意識障害や言語障害、錯乱、痙攣といった脳性マラリアの症状をおこすことになる(Miller et al ., 2002)。意識障害を併発したような重症マラリアの治療では非経口的な薬剤投与が必要となるので、キニーネ注射薬の使用が一般的となる。最近はアーテミシニンおよび誘導体の注射が用いられることもある(木村幹男、2002)。また、重症マラリアでは合併症の病態に応じた適切な支持療法も重要で、多臓器不全を起こした例に対し血液透析や交換輸血が行われることがある(WHO, 2000)。アフリカのサブサハラ地域では脳性マラリアにかかった小児の12~25%が死亡するといわれており、早期治療と早期診断がもっとも重要である。
    2.トキソプラズマ脳炎(Toxoplasma Encephalitis)
    トキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫:Toxoplasma gondii の寄生による感染症である。世界的には感染者数が5億人にのぼると推計されるが、免疫能の正常な宿主では不顕性か軽度な熱性疾患を発症し、頭頸部リンパ腺炎を示すことが多い。無症候性、症候性感染のいずれにおいても組織内に嚢子が形成され、潜伏状態が維持されるが、免疫不全の状態にある患者への感染では髄膜脳炎、心筋炎、肺炎、網脈絡膜炎などに発展することがある。その中で、トキソプラズマ脳炎は不顕性感染していた患者が、AIDSなどにより免疫抑制状態に陥った際に発症する重篤な疾患である。AIDS患者のうちトキソプラズマに対する抗体陽性者の30~50%で髄膜炎や壊死性脳炎を発症するといわれている(矢野明彦ら、2004)。症状の進行に応じて発熱、頭痛、精神状態の変化、痙攣などを示すが、時として、急速に進行する意識障害として発症することもあるので、注意を要する。
    トキソプラズマ脳炎の確定診断は脳脊髄液中に原虫の栄養体を検出することによるが、一般には画像診断により本症が推定される場合にはピリメタミンやサルファ剤などの投薬が開始される。治療により本症の予後は良好とされ、AIDS患者等では予防薬の終生服用が選択される。患者の多くが抗体陽性で、血清学的な診断が有効でない場合が多い。
    3.原発性アメーバ性髄膜脳炎(Primary Amoebic Meningoencephalitis: PAM)
    原発性アメーバ性髄膜脳炎(PAM)は自由生活性アメーバのNaegleria fowleri の感染によるもので、まれな疾患ではあるが世界的には毎年数例の犠牲者が出ている。この他に自由生活性アメーバによる脳炎はAcanthamoeba spp.、Balamuthia mandrillaris による肉芽腫性脳炎(Granulomatous Amoebic Encephalitis: GAE)が知られているが、いずれも慢性的/亜急性に推移する。また、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica )の脳内移行によって膿瘍が形成されることがある。
    PAMは健康で活動的な若者が水遊びの後に突然発症する。これは、N. fowleri が水温30℃付近の淡水に生息することによるもので、水と接触した際にアメーバが鼻腔粘膜から侵入し、嗅神経に沿って中枢神経系に達する。わが国では1996年に九州地区で真性のPAM 患者(死亡)が報告されている(福間、1997)。曝露から発症に至る潜伏期間は通常2ないし3日とされるが、まれに1週間を超える場合がある。これまで、10例に満たない治癒例を除き、ほぼ全例が発症から1週間程度で死の転帰をとっている(Jain R et al ., 2002)。治癒例はその直前に同一の地域で患者が発生しており、リファンピシンやアムホテリシンBなどを用いた診断的治療が施された例に限られている。
    本症は突然の頭痛(前頭から両側頭痛)、発熱(38.2~40℃)、吐気、嘔吐、あるいは髄膜刺激や脳炎の徴候をもって発症するが、感染の初期段階で他の化膿性髄膜脳炎との鑑別診断は困難とされる。時に咽頭炎および鼻閉や鼻汁分泌が認められる。本症の進行はきわめて急性で、多くの場合に発熱や髄膜脳炎の初期症状から急激に悪化して昏睡や痙攣に陥る。髄膜刺激の徴候は嘔吐などに先行するか、同時に現れる。羞明は比較的後期に認められる。
    病理学的には嗅粘膜および嗅球の破壊、多形核白血球と好酸球を主体とした細胞浸潤を伴う脳実質の出血性壊死を特徴とするが、組織反応は概して乏しく、組織内にはアメーバの栄養体のみが認められる。なお、マウスでの感染実験では鼻腔内でアメーバの増殖像が観察されている(黒木ら、1998)。
    本症は進行が速いことから免疫診断は有効とならない。むしろ感染経路を考慮して、地域性(過去に事例)、患者の年齢、季節(夏場)、水温、直近の水泳体験など、状況判断が重要となる。確定診断は脳生検あるいは髄液中からのアメーバの検出による。
    N. fowleri はこれまでに関東地方の2カ所の環境水から分離されており、また、患者が九州で発生していることから全国的に分布していてもおかしくない。Naegleria 属のアメーバは運動性に富んだ10~20μm程度の小型のアメーバで、栄養体のほかに有鞭毛体と嚢子の3形態をとる。N. fowleri 以外にも実験的に病原性を示す種が知られているが、人体寄生例は本種のみである。
    4.その他:中枢神経症状を示すことがある寄生蠕虫症
    寄生蠕虫症でみられる中枢神経症状は異所寄生や幼虫移行症など、本来の寄生部位でないところに寄生した場合や、ヒトを好適終宿主としない寄生虫がヒトに寄生した場合にみられることが多い。いずれも感染自体は慢性の経過をたどるが、神経症状自体は突然発症することがあるので注意を要する。異所寄生で重要なのはウェステルマン肺吸虫による脳肺吸虫症で、わが国では19世紀末からこれまで百数十例の報告がある。また、幼虫移行症の例としてはマンソン孤虫症や脳嚢虫症、包虫症などが知られている。脳嚢虫症は豚肉から感染した有鉤条虫の幼虫が中枢神経系に寄生することによっておき、国内で年間4~6例報告されているが、そのほとんどが海外での感染と推定される。その他、住血吸虫症においては血管内に産卵された虫卵が脳内血管を塞栓して肉芽腫形成に至り、その結果中枢神経症状をおこすことが知られている。
    寄生蠕虫による中枢神経症状は、その病態からわかるように、基本的には痙攣発作や局所的麻痺などの巣症状が中心となる。ただ、稀ではあるがこれらの蠕虫症においても急性脳炎様症状を示すことがある。また、脳内包虫症の末期などでは病変が拡がり、脳圧亢進症状を示して不幸な転帰をたどることもあるが、その場合は明らかに年余にわたる慢性の経過をとる。
    上記に示したような寄生蠕虫症での脳内病変は、CTやMRIなどの画像検査で占拠性病変として捉えられ、国内では脳腫瘍や脳梗塞などの疾患との鑑別が必要になることが多い。画像検査のみで診断できることは稀で、ほとんどの例で免疫血清診断などの寄生虫学的検査の併用が必要となる。また、治療に際しては、住血吸虫症や肺吸虫症ではプラジカンテルが使用され効果的だが、脳嚢虫症に対するプラジカンテル、脳内包虫症に対するアルベンダゾールなど幼虫移行症に対する化学療法の効果は限定的なものにとどまる。
     引用文献
    1) Miller LH, et al ., Nature 415: 673-679, 2002
    2)木村幹男, 感染症学雑誌 76: 585-593, 2002
    3) World Health Organization: Severe falciparum malaria, Trans R Soc Trop Med Hyg 94(Supple 1): S1/1-1/90, 2000
    4)矢野明彦, 青才文江, 別冊医学のあゆみ,現代寄生虫病事情(多田功編): 84-88, 2004
    5) Jain R, et al ., Neurology India 50: 470-472, 2002
    6)福間利英, IASR 18(5): 108, 1997
     http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/207/dj2077.html
    7)黒木俊郎, 他, 感染症学雑誌 72(10): 1064-1069, 1998


    http://idsc.nih.go.jp/iasr/28/334/dj3344.html

    トキソプラズマ症とは

    トキソプラズマ症とは


    トキソプラズマ症は、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)というアピコンプレクサに属する一属一種の寄生性原生生物(原虫)により起こされる感染症である。トキソプラズマはほぼ全ての温血脊椎動物(哺乳類・鳥類)に感染能を持つ。一度感染すると終生免疫が継続するが、感染率は国・地域・年齢によって異なる。食肉習慣やネコの抗体保有率、衛生状態などが複雑に関連すると考えられる。ブラジル、フランスなどで感染率が高い,2。世界的に見ると全人類の1/3以上(数十億人)が感染しているとされるなど非常に広く蔓延していることが知られている。健常者が感染した場合は、免疫系の働きにより臨床症状は顕在化しないか軽度の急性感染症状を経過した後で、生涯にわたり保虫者となる。しかし、HIV感染患者などの免疫不全者には重篤な症状を引き起こすため、十分な注意が必要である。また、妊娠中の女性が感染することにより起こる先天性トキソプラズマ症は、死産および自然流産だけではなく児に精神遅滞、視力障害、脳性麻痺など重篤な症状をもたらすことがある。

    病原体

    toxo fig1
    図1. トキソプラズマ。
    toxo fig2
    図2. トキソプラズマの生活環。
    トキソプラズマは幅3 µm、長さ5-7 µmの半円〜三日月形をした原虫である(図1)。細胞内寄生性であり、環境中で単独では増殖しない。トキソプラズマの生活環は終宿主内での有性生殖と中間宿主内での無性生殖のステージからなる(図2)。有性生殖はネコ科動物の腸管上皮内でのみ成立するが、無性生殖はヒトや家畜など全ての温血動物で可能である。
    中間宿主への感染は、他の中間宿主組織シストまたは終宿主であるネコ科動物のオーシストを経口摂取することによる。摂取されたトキソプラズマは、消化管壁から中間宿主の細胞内に侵入し、endodiogeny(内生2分裂)とよばれる特徴的な2分裂を行い活発に増殖する。急性感染期に宿主が妊娠中であれば原虫が胎盤を通過して胎児に移行する。宿主側の免疫応答が開始されると、トキソプラズマは中枢神経系や筋肉内で組織シストと呼ばれる構造をとる。組織シストは安定な壁に覆われているため、トキソプラズマは免疫系の攻撃を受けずに生存を続ける。組織シスト内部での原虫増殖は緩やかであり、この時期の原虫をブラディゾイト(緩増虫体)と呼ぶ。ヒトを始めとする中間宿主が感染中間宿主を摂食することに伴い組織シストを経口摂取するとトキソプラズマは新たな宿主内で同様に増殖を開始する。
    終宿主であるネコ科動物が感染中間宿主を捕食すると、組織内に存在する組織シストからトキソプラズマは遊離して腸管上皮に侵入する。原虫は数回の無性生殖を行った後、有性生殖により雌性、雄性配偶子を形成する。両者は腸管内部で融合し、未成熟オーシストとして糞便などとともに体外に放出される。未成熟オーシストは一定時間中に分裂し、一つのオーシストの中に8個の虫体が含まれた成熟オーシストとなる。
    以上のように、トキソプラズマは他の多くの寄生原虫と同様に、生活史に中間宿主と終宿主の両方を必要とする。一方でトキソプラズマでは、中間宿主-中間宿主の感染が成立するという点が大きな特徴となっており、この形質が本原虫の急速な拡散、遺伝的均一性の増加をもたらしたと考えられている。
    図の説明
    図1: GFPを発現しているトキソプラズマ原虫。トキソプラズマは宿主細胞内でエンドダイオジェニーとよばれる独特の2分裂を繰り返し、図のように花びら状に増殖する。
    図2: 筑波大学大学院 松原立真氏提供。☆は新たな宿主に伝播可能な経路を示す。a)感染はネコ科動物から排出されたオーシストを経口摂取することで生じる。b)オーシストは体内に侵入し、タキゾイトとして活発に増殖する。c)免疫系の活性化に伴い、抵抗性のある組織シストを形成して内部でブラディゾイトに分化する。d)中間宿主を捕食することで、組織シストがネコ科動物に取り込まれると腸管内で有性生殖が起きる。e)組織シストは中間宿主に摂取されると新たな宿主内で再びタキゾイトとなり増殖する。f)妊娠中に初感染すると、経胎盤感染により胎児に先天性トキソプラズマ症を引き起こす。g)伝播は終宿主であるネコ科動物同士でも可能である。青矢印は無性生殖、赤矢印は有性生殖を示す。

    ヒトへの感染

    トキソプラズマのヒトに対する感染は、加熱の不十分な食肉に含まれる組織シスト、あるいはネコ糞便に含まれるオーシストの経口的な摂取により生じる。眼瞼結膜からも感染するが、空気感染、経皮感染はしない。
    日本では主な感染源として従来豚肉が重要視されてきた。ブタのトキソプラズマ症の報告について少なくなってきているものの、依然として報告例があり、特に沖縄県においてはむしろ発生数に増加傾向が見られ、注意が必要である3)。沖縄県においてブタのトキソプラズマ症は、と畜検査における全部廃棄対象疾病の中でもいまだ上位を占めている。ブタに限らずトキソプラズマは全ての温血動物に感染可能であるため、魚介類を除き、哺乳類である鯨を含めた獣肉や鳥肉の生食や加熱不十分は常に感染のリスクを伴う。妊婦もしくはその可能性のある方は、肉の生食は控えるとともに、肉を調理する際には、中心部まで十分に加熱することやまな板を肉用とその他用に分けるなどの対応が必要である。なお、食肉中のシストの不活化には、中心が67℃になるまでの加熱4)、あるいは中心が-12℃になるまでの凍結5)が有効であるとされる。電子レンジによる加熱では内部温度の十分な上昇が得られないため必ずしも確実であるとはいえない6)。なお冷蔵処理では原虫の感染能を排除できないため注意が必要である。
    食肉以外にも、近年は水や土壌由来の感染事例が散見され、特に水系伝播ではアウトブレークが報告されるなど、環境からの感染リスクも無視出来ないものとなっている7-9)。環境からのトキソプラズマ感染は、終宿主であるネコの糞便に含まれるオーシストにより引き起こされる。オーシストは-20 ºCで1ヶ月程度生存可能であることが示され10)、また次亜塩素酸やエタノールを含む多くの消毒剤が無効であるため注意が必要である。ガーデニングやすな場など土壌との接触、感染したネコとの接触、井戸水、わき水等の無処理の生水の摂取は感染の確率を上昇させる。感染したネコがオーシストを排出するのは、初感染後数日からおよそ2週間までの間のみであり、また、排出されたオーシストが成熟し感染能を獲得するまでに少なくとも24時間を要するとされるため、糞便の処理を毎日(24時間以内で)実施することにより感染力のあるオーシストとの接触を回避できる(このときトイレ容器は熱湯で消毒することが望ましい)。よって、妊娠を理由に飼いネコを処分する必要はないが、猫の糞便の処理は妊婦以外の者が行うことが望ましい。

    臨床症状・診断

    トキソプラズマの臨床症状は感染時期や感染者の状況に大きく左右される。そこで病型ごとに分けて症状を記載する。また診断は臨床症状と血清診断、遺伝子検査が主なものとなる。最近発表された1997年7月から2004年12月までの約7年半にわたる宮崎県での計4,466例の妊婦の抗体検査による調査結果では、妊婦の抗体保有率は全体で10.3%、35歳以下の若年者で9.6%であることが報告されており11、妊娠中の女性や免疫不全者は、感染予防に留意が必要である。
    1. 先天性トキソプラズマ症
    2. 妊娠中の女性がトキソプラズマに初感染した場合、トキソプラズマが胎盤を通過して胎児に垂直感染する可能性がある。胎児への感染率は妊娠末期になるほど上がるが、胎内感染が起こった場合の重症度は妊娠初期ほど高い12)。胎内感染の転帰は、不顕性から流死産まで様々であり、顕性感染の場合でもその重症度は様々である。先天性トキソプラズマ症では、水頭症、脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神運動機能障害が4大徴候として知られている。その他、リンパ節腫脹、肝機能障害、黄疸、貧血、血小板減少等が見られることもある。不顕性感染となった場合も、眼病変などはおおよそ思春期頃まで遅発性の発症のリスクがあるとされている。
      妊婦の感染を疑う場合、妊婦の抗体検査(IHA法、LA法など)、IgM抗体検査(ELISA法など)やIgGアビディティ(avidity,結合力)検査で、胎児の感染リスクを評価する。高リスクの場合は、羊水から原虫遺伝子をPCR法により検出することにより胎児感染診断を試みることがあるが、確実な方法ではない。出生後の診断のためには移行抗体消失後に児の血清検査を行う。IgGアビディティ(avidity,結合力)検査やPCR法による検査は未承認であり、今後の確立が求められる。
    3. 後天性トキソプラズマ症
    4. (1) 急性感染
      健康成人または小児が後天的にトキソプラズマに感染した場合、多くは無症状で経過する。発症した場合、発熱や倦怠感やリンパ節腫脹などの非特異的な一過性の症状が起こり、時に伝染性単核症様の病態を呈する。通常、特異的IgGとIgMの抗体価測定により血清学的な診断を行う。
      (2) 眼トキソプラズマ症
      眼に孤発して発症する。先天性感染の再活性化で生じることが多く、後天性感染で発症することは稀である。症状としては、視力障害、眼痛、羞明などが見られる。
      (3) 日和見トキソプラズマ感染症
      免疫不全者では、体内に潜伏感染していたトキソプラズマが再活性化し、脳炎や肺炎や脈絡網膜炎などの重篤な症状を引き起こす。トキソプラズマ脳炎の臨床症状としては意識障害、けいれん、視力障害などがあげられる。また、頭部造影CTやMRIで、病変はリング状に造影される腫瘤として認められる。
      トキソプラズマ脳炎の診断は、PCRによる髄液からの原虫遺伝子の検出によるが、感度が低く、陰性であっても感染は否定されない。

    治療

    2012年11月現在、海外で使用されるピリメタミンやスルファジアジンなどは日本では未承認となっている。また、スピラマイシンの類薬であるアセチルスピラマイシンなどの国内承認薬もトキソプラズマ症が適応症となっていない。そのため、適応外使用や個人輸入により治療が行われており、今後国内での開発が期待される。海外での実際は文献12に詳しい。

    疫学

    1. トキソプラズマ症の疫学
    2. 前述の宮崎県における妊婦の抗体検査による調査結果では、0.25%が妊娠期間中にトキソプラズマ抗体が陰性から陽性へと陽転しており、妊娠中のトキソプラズマ感染が推定された11)。先天性トキソプラズマ症の発生が疑われるが、前述の通り、不顕性遅発性の先天性感染は妊娠中や出生時の画像や肉眼所見による診断が困難であり、検査の確立やフォローが課題となっている。
      また、トキソプラズマはHIV感染者に致死的な脳炎を引き起こして患者を死に至らしめることが知られており、アメリカでの統計によるとHIV感染患者の18-25%がトキソプラズマ脳炎を発症することが報告されており13)、本症で死亡するHIV感染者は米国で全患者の10%、欧州では30%に及ぶとされる14)。また、CD4細胞数が100/mm3以下に低下したHIV感染者の約30%にトキソプラズマの再燃が見られたとの報告もある。本邦においては、2011年までの日本国籍AIDS 患者累計(5,158 件)において、トキソプラズマ脳症は94例(1.8%)報告されている15
    3. トキソプラズマ原虫の分子疫学
    4. トキソプラズマは遺伝的な多様性が非常に低いことが知られている。本原虫の分子疫学は欧州と北米地域で詳細に調査されており、これらの地域に流布するトキソプラズマは3種のクローン(I〜III型)にほぼ限定されることが報告されている16)。これらのクローンは約1万年前に出現したと推定されており、またその時期は人類が農耕や牧畜を始めた時期とほぼ一致することから、これらの3クローンは人類の農耕や牧畜に対して何かしらの有利な形質を持っており、人類社会の周辺に適応、選択されたのではないかとの仮説が提唱されている。また、各クローンはヒトやマウスに対する病原性やその分離される場所が異なることが知られている。Ⅰ型のトキソプラズマは強毒性系統であり、先天性感染などの急性感染患者から分離される。マウスのLD100(100%致死量)は100、すなわち1である。Ⅱ型は弱毒性系統であり、ヒトではAIDS患者など慢性感染の患者から分離され、マウスのLD50は103以上である。Ⅲ型は主に家畜から分離され、マウスに対する毒性は非常に低く、基本的に無毒であることが知られている。
      しかしながらこれらのトキソプラズマ分子疫学は欧米のヒトおよび家畜を対象としたものが大半であり、その他の地域や野生動物におけるトキソプラズマの分布と系統に関わる情報はほとんど明らかになっていない。事実、南米のトキソプラズマの遺伝的多様性は北米および欧州地域に比べ大きく異なっていることや17)、北米には主に野生動物に感染する新たな第4番目のサブタイプが存在し、ヒトへの感染源になり得ること18)など、最近新たな知見が次々と見出されている。このような中で日本を含むアジア地域におけるトキソプラズマの詳細な分子疫学調査はほとんど行われておらず、感染経路を含む感染の実数調査および病原性と分子系統の詳細な解析が望まれる。特に我が国は欧米諸国と地理的に隔てられており、また生肉嗜好性など食習慣も欧米人とはかなり異なっているので、欧米で用いられている遺伝子多型による病原性判定が適用可能かについても再確認が必要であるものと考えられる。

    引用文献

    1) 川名尚、小島俊行:母子感染, 金原出版, 2011
    2) Dubey, J.P.: The history and life cycle of Toxoplasma gondii. in: Toxoplasma gondii (Weiss, L.M. and Kim, K. ed.) , Academic Press, 2007
    3) 喜屋武尚子、松原立真、永宗喜三郎:トキソプラズマ症と沖縄県におけるトキソプラズマの流行状況について.防菌防黴(印刷中)
    4) Dubey, J.P., Kotula, A.W., Sharar, A., Andrews, C.D., Lindsay, D.S.: Effect of high temperature on infectivity of Toxoplasma gondii tissue cysts in pork. J. Parasitol. 76: 201-204, 1990
    5) Kotula, A.W., Dubey, J.P., Sharar, A.K., Andrews, C.D., Shen, S.K., Lindsay, D.S.: Effect of freezing on infectivity of Toxoplasma gondii tissue cysts in pork. J. Food Protection 54: 687-690, 1991
    6) Lunden, A., Uggla, A.: Infectivity of Toxoplasma gondii in mutton following curing, smoking, freezing or microwave cooking. Int. J. Food Microbiol. 15: 357-363, 1992
    7) Heukelbach, J., Meyer-Cirkel, V., Moura, R.C., Gomide, M., Queiroz, J.A., Saweljew, P., Liesenfeld, O.: Waterborne toxoplasmosis, northeastern Brazil. Emerg. Infect. Dis. 13: 287-289, 2007
    8) Bowie, W.R., King, A.S., Werker, D.H., Isaac-Renton, J.L., Bell, A., Eng, S.B., Marion, S.A.: Outbreak of toxoplasmosis associated with municipal drinking water. Lancet 350: 173-177, 1997
    9) Benenson, M.W., Takafuji, E.T., Lemon, S.M., Greenup, R.L., Sulzer, A.J.: Oocyst-transmitted toxoplasmosis associated with ingestion of contaminated water. New Engl. J. Med. 307: 666-669, 1982
    10) Frenkel, J.K., Dubey, J.P.: Effects of freezing on the viability of toxoplasma oocysts. J. Parasitol. 59: 587-588, 1973
    11) Sakikawa, M., Noda, S., Hanaoka, M., Nakayama, H., Hojo, S., Kakinoki, S., Nakata, M., Yasuda, T., Ikenoue, T., Kojima, T.: Anti-Toxoplasma Anitibody Prevalence, Primary Infection Rate, and Risk Factors in a Study of Toxoplasmosis in 4,466 Pregnant Women. Clin. Vaccine Immunol. 19: 365-367, 2012
    12) Montoya, J.G., Liesenfeld, O.: Toxoplasmosis. Lancet 363: 1965-1976, 2004
    13) Kasper, L.H., Buzoni-Gatel, D.: Some opportunistic parasitic infections in AIDS: candidiasis, pneumocystosis, cryptosporidiosis, toxoplasmosis. Parasitol. Today 14: 150-156,1998
    14) Hill, D., Dubey, J.P.: Toxoplasma gondii: transmission, diagnosis and prevention. Clin. Microbiol. Infect. 8: 634-640, 2002
    15) 平成23年エイズ発生動向年報  http://api-net.jfap.or.jp/status/2011/11nenpo/hyo_11.pdf
    16) Howe, D.K., Sibley, L.D.: Toxoplasma gondii comprises three clonal lineages: correlation of parasite genotype with human disease. J. Infect. Dis. 172: 1561-1566, 1995
    17) Khan,A., Fux, B., Su. C., Dubey, J.P., Darde, M.L., Ajioka, J.W., Rosenthal, B.M., Sibley, L.D.: Recent Transcontinental Sweep of Toxoplasma gondii Driven by a single Monomorphic Chromosome. PNAS 104: 14872-14877, 2007
    18) Khan, A., Dubey, J.P., Su, C., Ajioka, J.W., Rosenthal, B.M., Sibley, L.D.: Genetic analyses of atypical Toxoplasma gondii strains reveal a fourth clonal lineage in North America. Int. J. Parasitol. 41: 645-655, 2011


    https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3009-toxoplasma-intro.html

    トキソプラズマが人の脳を操る仕組み

    トキソプラズマが人の脳を操る仕組み

    トキソプラズマ症を引き起こす寄生虫トキソプラズマ(緑色)をとらえた透過型電子顕微鏡(TEM)の着色写真。

    Image from Moredun Scientific Ltd./Science Source/Photo Researchers
    チェコの進化生物学者ヤロスラフ・フレグル(Jaroslav Flegr)氏は、大胆な主張によってここ1年ほどメディアの注目を集めている。トキソプラズマというありふれた寄生虫が、われわれの脳を“コントロール”しているというのだ。 トキソプラズマは通常はネコに寄生する。巧みな戦略をとることで知られ、ネコからネコへ感染するのにネズミを媒介とし、寄生したネズミの行動を変化させてネコに食べられやすくすることで新たな宿主に乗り移る。

     ネコに食べられやすくするため、トキソプラズマがネズミに引き起こす行動の変化は、反応時間が遅くなる、無気力になる、危険を恐れなくなるというものだが、このような変化はトキソプラズマに寄生された人間にも現れることをフレグル氏は発見した。しかし、トキソプラズマがどのような方法でそうした変化をもたらしているのか、最近までほとんど解明されていなかった。

     2カ月前、スウェーデンの研究チームが謎を解く重要なカギを発見した。寄生した体内を移動し、さらには肝心の脳に到達するために、トキソプラズマは白血球を“乗っ取る”。白血球といえば、そもそもこのような侵入者を攻撃する細胞だ。白血球を路線バス代わりに利用するだけでなく、トキソプラズマはそれらを小さな化学工場に変え、ネズミの、ひいては人間の恐怖感や不安感を鈍らせる神経伝達物質を作らせているという。

     トキソプラズマは主にネコを宿主とするが、ゴミ箱、汚染された水、加熱の不十分な食肉などを介してヒトへも多く感染している。ほとんどの場合、感染しても大きな問題とはならないが、妊娠中の女性は注意が必要だ。米国疾病予防管理センター(CDC)は、妊婦が感染した場合、流産や先天異常のリスクが高まると注意を呼びかけている。

    ◆謎の解明

     1990年、フレグル氏はひょんなことから自身がトキソプラズマに感染していることを知った。同僚の研究者が新たな診断テストを開発し、それをフレグル氏に試したのだ。感染を知ったフレグル氏はあることをひらめいた。トキソプラズマがネズミの恐怖感を低下させ、ネコに食べられやすくすることを知っていた同氏は、自身もまた少し前から恐怖心が鈍くなったことに気づいていた。「道を渡っていて、車にクラクションを鳴らされたのに飛びのかなかった」のだ。そこでフレグル氏は考えた。これはトキソプラズマが原因ではないだろうか?

     それから15年間、公衆衛生データによる実験と分析を行った結果、フレグル氏はトキソプラズマと人間の行動にいくつかの驚くべき関連性があることを突き止めた。トキソプラズマに感染した人は交通事故に遭う確率が2倍以上高まるが、これはトキソプラズマが反応時間を遅くするためだとフレグル氏は考えている。さらに、感染者は統合失調症を発症しやすくなるという。トキソプラズマ感染は自殺率の上昇に関連しているという別の研究チームの報告もある。

     トキソプラズマがこうした変化を生じさせるメカニズムは謎だったが、2009年にイギリスの研究チームが、トキソプラズマはドーパミンの前駆物質であるレボドパ(L-dopa)を生成する2つの遺伝子を持つことを発見した。ドーパミンの増加は統合失調症の発症と関連付けられている。しかし、この発見だけではすべてを説明できず、依然として多くの謎が残った。

    ◆免疫細胞を乗っ取る

     スウェーデンのカロリンスカ研究所感染症学センターに所属する研究者、アントニオ・バラガン(Antonio Barragan)氏のチームは、マウスの血液中のトキソプラズマを調べ、彼らが意外な場所に生息していることを発見した。彼らを殺すはずの免疫細胞の内部だ。この細胞は白血球の一種で、樹木に似た形状から“樹状細胞”と呼ばれる。「樹状細胞は免疫系の門番だ」とバラガン氏は言う。「われわれは、トキソプラズマがこれらの細胞を移動手段に使っているのではないかと考えた」。つまり、樹状細胞を“トロイの木馬”にしているのではないかというのだ。

     この読みは当たっていた。トキソプラズマはこの免疫細胞を使って体内を移動し、宿主の脳に到達していた。しかしどうやって? 免疫細胞は刺激を受けないと動かない。かといって、トキソプラズマが動かしているわけでもない。樹状細胞は自分が感染していることすら気づいていない様子だ。それでは何が樹状細胞を動かしているのだろうか?

     答えが見つかった。神経伝達物質のガンマ-アミノ酪酸(GABA)だ。「不可解なことだった」とバラガン氏は言う。「GABAは脳内で機能するものだ。それが免疫系で何をやっているのか?」。しかし現に、GABAはそこにいた。バラガン氏はそれまで誰も見たことのないものを目にしていた。どうやらトキソプラズマが樹状細胞の内部でGABAを産生させ、同じ樹上細胞の外側にあるGABA受容体を刺激し、それによって細胞に体内を移動させ、脳に到達していると考えられた。そしてここからが肝心な点だ。統合失調症など多くの精神障害では、一般にGABAの機能の乱れが観察される。そしてGABAの量が増えることは「恐怖感や不安感の低下に関連付けられている」とバラガン氏は述べている。

     それでも、今回の発見ですべての謎が説明できるわけではないとチェコのフレグル氏は指摘する。「私は依然として最も重要な物質はドーパミンだと考えている。しかし、このGABAのメカニズムは斬新で非常に興味深い」。

     また、さして驚くにはあたらないが、トキソプラズマに関してこれまでにわかった事実から考えて、「彼らは非常に、非常に賢い生物だ」とフレグル氏は述べている。 

    http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/7449/

    餌やり猫愛誤の子供は殺人鬼に育つ(トキソプラズマ)(弓形蟲感染症)

    餌やり猫愛誤の子供は殺人鬼に育つ(トキソプラズマ)(弓形蟲感染症) 猫様に奉仕するため社会と戦った、猫真理教の聖戦士たちを紹介します。 ------------------------------------------------------- ●200...